[絵を、描いている。
下書きなのだろう。
ふんわりとしたタッチは大枠だけを捕え、
かと思えばバランスを見るために鉛筆を立ててみたりする。
納得がいかなかったのかキャンバスから目を離すと、
原案が描かれているであろうクロッキー帳を手に取った。]
……。
[根岸は絵を描いた経験がなかった。
故に手元のクロッキー帳やキャンバスに描かれるものは
美術担当のスタッフさんの作品である。
しかし、それを己が描いたかのように見せることも
演者としての腕の見せ所だ。
舞台よりはやや大人しく、けれど見栄えはするように。
絵を描く人を観察したり実際に描いてみたり、
役作りで実践したことを活かして演じてみせた。]