「 シラユキ、 」
[理音のくちびるから、白い吐息と共にその名が零れました。
生物としての種は違えど、おなじ“雪の妖精”の愛称で呼ばれることが、理音にそう呼ばせたのでしょうか。それとも――…。
一方の雪の白に黒を呈した小鳥は、何も知らぬ様子で――ほんとうに、何も覚えていることなく――つぶらな黒い瞳をヒトの個体の方に向けたまま小首を傾げます。
理音は、トートバッグを提げていない方の手をふいに小鳥へと伸ばしました。
そして辛うじて指先が触れそうになったところで、小鳥は翼を広げて柵から飛び立ち、そのまま、どこにも見えなくなってしまいました。]
「シラユキ」
『……うん。
あのシマエナガ、きっと、シラユキだよ』
[昴が笑ってみせる傍で、理音はその“シマエナガ”がいた方角を見つめたまま、小さく、か細く、呟きます。]