[過った思考>>131を振り払う形で、ヘロンは漸く言葉を声に出す。
結局、ユラを引き留める言葉の一つもこの口からは出てこなかったが……]
ああ、私も、君に会えて良かった。
どうか君も、楽しい素敵な夜を。
(君の失くしたものも、……)
[「大切なもの」への願いまで安易に紡げなかったのは、雨の冷たさを思うが故であり、自分自身のことがあった所為でもあり。
ともあれ向けられた精一杯の微笑に、自分の機体では表情を作れないと分かっていながらも、笑う心算で精一杯の別れの挨拶を。
実際のところ、ヒトとしての顔のほうではきちんと穏やかな笑みを作れていた。
それも、背を向けてしまった相手の目に映らないものではあったが。]