【M】 偵察兵見習い タリア

ライブ会場にて

[音楽に心を動かされるということが今まで無かったし、人よりも恐らく感受性というものには欠けていると自覚している。何よりも、音楽の聴き方を恐らくボクは知らない。それよりも会場の熱量に圧倒され>>63とにかく外に出たい、と思ってしまったのが本音だ。

ボクに音楽を聴くという経験が今までに1度でもあれば違っただろうか。路地裏に住んで8年、堅物の先輩の元で軍のためだけに生きて10年。全く歌を聞いたことがないわけではないが、基本的に聞く機会など得られることもなく（当然のごとく教育も受けていないので音楽などを習った経験もなく）ましてや大勢の…しかも国の違う者も多いこの町で、大勢の人に囲まれて音楽を聴くなど、最初で最後なのかもしれないなとも思った。

ステージではどうやら新曲を歌い始めたようだ。静かな曲になったのか、客の熱は穏やかになり抜け出しやすくなる。

人をかき分け、後ろへと進む。こんなに狭い場所では跳ぶことも難しいし、何より背丈が低いゆえに人をかき分けることすら困難で。

漸く抜け出したその場所に、見知った顔が ―― あった。>>130]