[──思わず閉口した。
………厳密に失くしたものが"彼女"と言うのは間違ってはいない。
ただ、どうして僕からそれが無くなったのかが分からなかった。
動揺をその瞳に堪えながら、僕は信じられない事の様に言葉を紡いだ。]
……僕は、" お嬢様"の名前を失くしていたみたい……です。
[ローズさんにはただ、『お嬢様の名前を失くしていた』と聞こえただろうか。
だけど、僕は確かに"彼女"の名前を紡ごうとして……紡げなかった。
顔も思い出せる、想い出だって覚えている。
積み重ねた写真が、その姿を写し出しているから。
ただ、名前だけが、ぽっかりと。
僕の中から消え失せてしまっていた。]