― いつかの、交流スペース ―
傷、痛む?
[それは、いつだったか。少なくとも刑務中では無かったことは確かだ。
心配そうに顔の火傷を指さして。わたしは音も無く彼女の隣に顔を出す。
体罰の音、漏れるうめき声、罵り、傷つけ、怯え、諦め。
そう言う物が耳に入って来たから、声をかけた。]
医務棟まで付き添いましょうか
痛み止めとか、軽い抗生剤ぐらいなら
出してくれるかも
[火傷だけではなく、体罰による新しい傷もあるだろうから。せめてそれだけでも顔を覗き込んだ。
残念ながら自分には、包帯やガーゼ、救急絆創膏と言った治療道具の持ち合わせは無い。
自分は、看守に握らせるような金を所持していない。だから本当は彼女に何もしてあげられない。
出来るのは、気遣う声をかけてあげる事だけで。]