[それは多分“見えなかった”のだ。
望んで来たはずが見つけることを恐れ始めたせいでそうなってしまっていたのだ。
不意にベンチに座っていた少し大人びた少女が、立ち尽くす少年と男性の二人に気づいて「あ!やっと来た!」と声を上げる。
すると瞬く間に十人弱はいようという子供達が二人の前に集まってきた。口々に話すせいで全ては聞き取れないが、「イノリ」と呼ぶ声が何度も上がっていたのは確かだった。]
み、皆……
[いつの間にやら元の服装に戻っていた少年は、突然のことに怯みマストの背後に引っ込んでいたところから顔を出す。
すると「このおっさん誰!?」と一際わんぱくに遊んでいた男の子がマストを指差して失礼なことを言ったものだから少年は慌てて仲間達の前に飛び出した。
おじさんではなくお兄さん、良くしてくれた大人だ、写真家という立派な仕事をしている、と一生懸命説明し、ひとまず納得される。
誰だとは思ったが、そもそも別に誰もマストに敵意は抱いていなかったようだ。
先程の少女は特に「この子が沢山ご迷惑をおかけしました」と頭を下げて感謝していた。
この子供達も遊園地の客の内ならば、既にスタッフに関わったりと優しい大人の存在を受け入れた後だったのかもしれない。]