[何でも与えられて、動かなくてよかったのだとその人は言いました。>>110 それがどういう状況なのか想像に及ばず、わたしは首を傾げます。…父がもし生き続けていたならば。もしかしたら“近しい暮らし”を送っていたかもしれないのだと、彼女の境遇を知らぬわたしが思い至ることはありません。父が生きていて、名実を伴う家庭で暮らし続けていたならば。あの日縁談が破談にならなければ。……なんて。この時わたしは考えることすらしませんでした。だからわたしは、ドルチェの話をただ頷きながら聞いています。]