[目を付けたのは壊れた扉。
普段であれば通行者を拒む重厚なそれであったが、今は見る影も無く。
凹んでしまう程に何かで殴りつけられ、バールでメチャクチャにこじ開けられた後は、死体のように放置されている。
かわいそうに。
でも、わたしが上手に使ってあげるからね。
そうして、扉に張り付いていた複数本の細いワイヤーを引き剥がしにかかる。
絡まる有刺鉄線で傷を負わないよう、丁寧に作業して。
誰も彼もが喧嘩で忙しくて、わたしの事なんて目もくれない。でも今はそれが有り難かった。
そうして伸ばしたワイヤーの先を水溜りの隅の方に放り投げ、ぽとんと水面に横たわった事を確認すれば、わたしは小走りで扉の向こう側へ。
床を濡らす水たまりは、そこそこの広範囲を覆っていたものの、扉付近までは迫っておらず。
それを良い事に、わたしは足元を殆ど濡らさぬまま、全ての作業をこなしていた。]