[隣国の戦争の激化と母国の治安の悪化、腐り切ったスラム。見境なく蹂躙された母は、望まなかった子供を女手一つで育てようとした。当然父親の顔なんて知るはずもない。生きるためならなんでもやった幼少期。感染病に冒された母親の死後、戦時下でもあるメトロポリスにわざわざ“逃げる”ことになったのは、他でもない、自分を守るためだった。
何でもするから強くしてほしい。齢8歳の子供が糞みたいな望んでもない自由と引き換えに手に入れたのは、超人の”真似事”ができる身体と、偵察兵という役割だ。光の速さで駆ける力、跳ぶ力。それは言い換えれば”逃げる”ための力だった。
偵察兵とは名ばかりで、正直足しか取り柄のない自分が棄て駒のひとつでしかないことくらい、とうの昔に気付いていた。それでも日々の飯すらありつけず、身の危険を感じて怯えるトループのスラムで暮らすよりも断然いい。生き抜き、宿舎に帰ることができれば寝床と飯が待っていた。
”国交上は平和なトループ”よりも”戦争中のメトロポリス”のほうが、安全で、満たされた生活を送れる環境だった、それだけ]