[キリ、ではお気に召さなかったらしい。
名を呼んだ時に少々複雑な表情が見て取れた。]
解った、コウスケかコウだな。
俺の事は好きに呼べと言っている。
[おそるおそる、といった風に聞いてくる声に
当たり前のように返答したその声は険のある言い方に聞こえてしまったかもしれない。
男の中では「そう言っただろう」という、ただそれだけの意なのだが。
その名の中に獅子を見出したコウとは違い
“キリノキコウスケ”の中に樹を見ることも虹を見ることもない。
漢字という概念がそもそも存在しないのだから仕方がない。
今こうして普通に話せているのも、すべては翻訳魔法のおかげだ。]