―回想・おぼろげな記憶―
『この子は幼い。心に傷を負ったまま安全な部屋に閉じ込めるよりは、穏やかな表の社会で暮らした方が遥かにいいと私は思う――少なくとも、ウチが絶対的な覇権を手にするか、例の通りに危険が訪れるまでは』
[誰がどのように言っていたか、そもそも男の声か女の声かも覚えていない。しかし父を失い、茫然自失となっていた私の記憶に残っているのは、そのような事を言われ、そして深く考えず頷いたことだけだった。
少しして。漠然と父の背を追っていた最中のことと思い出し、生きる意味を見失っていた私は自身の受け入れ先に興味を持つ。
組織とは縁もゆかりも……少しだけあるらしいのだが、詳しくは聞いていない。
聞いたのは「シルウァ」という名の若女将のことと、なかなかに繁盛しており賑やかな日々を送れる場所だということ。
さしあたり機械の体の制御と仕組みを覚え(といっても何年もかかったのだが)、ようやく人の世界に戻れるという。
――完治と出発の報告をすべく、祖父たる公爵に挨拶をした時の言葉は、私の胸に今も残っている。]
『ああ、気楽に行ってくるといいさ。お前の眼も……そうだね。期待しているよ』
[何かを抱えているわけでもない胸中の、私も知らない何かを見透かされているかのような。
そんな不気味さを感じたことを覚えている。]