(なぜ、自分はここにいるのだろう)
[いくら考えても答えなど出はしない。
……人権などというものからは、はじめから縁遠かった]
[まず、ぴりぴりと震える触角が辺りを探る。
節のある、りゅうとしたそれを打ち振り、
それからのろのろと体を起こす。
炙られ剥がされた、ヒトの肌と外骨格の継ぎ目が軋む、
それらは薄闇の中でも分かる薄黄緑色の体液を滲ませている。
鼻をかむと、同じ色をした液体が噴き出した。
狭い独房でピレスロイド系殺虫剤をぶちまけられなかった分、
看守の機嫌はマシな方なのだろうと考えた。]
[首元でカチャリと音を立てるプラスチックの首輪。
これがなければ、蟲ケラ一匹いたることもできない連中。
(ああ、馬鹿げてるな)
表面上は模範的な囚人である、異形の男はそうひとりごちた] *