― 公爵令孫と>>203>>204 ―
[不意に感じたのは、誰かが部屋に入ってきたような気配。
交換されるタオルと、恐らく空調か何かの音。
対象を視線で追うものの、ピントを合わせて居ない頭では、ぼんやりとしたカラーリングやシルエットでしか相手を認識できない。
きんぱつの、ちいさな、だれか。
ああ、すごくしってる、ぜったいしりあいだ。
そうこうして居る内、反抗する人形側から大量のデータが逆流して来れば、知り合いの名を探り当てようと記憶の蓋を開ける間もなく、小さなうめき声を上げて眠るように目を閉じる。
そうしてしばし沈黙。
逆流への対応が終われば、一区切りであると水のボトルに手を伸ばす。
けれど声が聞こえた、少女の声だ。そしてわたしは彼女の声を知っている。
――話しかけられている。
誰に?自分に。そういえばこの部屋には、自分以外の誰かが居たんだった。
さっきタオルを変えてもらったっけ。
リンク解除、意識浮上。
ブゥンと言う耳鳴りが煩い。]