[白薔薇が両腕を引っ込めてからの提案に、今度は「先輩」のほうからその腕が伸ばされました。>>202
言葉こそありませんでしたが、自ずから胸に飛び込むその動作は、提案を受け入れてくれたのだと白薔薇にも思えました。
とはいえ、実際に触れあったその時に、その人が抱いた怖気が――嫌な思い出の一端が、白薔薇にも伝わりました。
……彼に触れてしまったが故に、その心が幾らかでもまた読めてしまいます。すっかりそのことを忘れたまま「先輩」を抱きしめようとしていた白薔薇でした。
その怖気に気づいた白薔薇は微かに両腕を緩めましたが、「先輩」の方から離れる気配がなければ、再び腕に緩やかに力を籠めていました。その人の顔を胸で隠すようにして。
こうして、植物としてのバラの苗には無かった温度の体温を、冷えたヒトの身体に分け与えます。]