[それから幾つかの曲を挟んで歌ったのは――『あなたしかいない』。
これは理音の心のうちにかなり昔からあった楽曲ではありますが……今年に入ってから、ほんの少しだけ、これまでとは異なる形での思い出も加わった曲でした。
“皇先輩、一緒に演ってくれたなあ”>>35
さらりと雑誌のページを捲って見せる程度の心の記憶は、それでも確かに、シンプルで穏やかながらも、楽しくて明るいコードと共に白薔薇にも伝わっていたのです。>>0:294
その記憶をここでも思い出せばこそ、この楽曲を歌い終わった後、白薔薇はマイクを置きます。
今ここで白薔薇が抱いた引っかかりも、その時が来れば、清廉なる真っ白な雪に覆われて自ずから解けるのかもしれません。>>#0
白薔薇自身、このお宿に辿り着いたその時から――この宿での記憶を次に持ち越すことはないと――なんとなく解っていたことではあったのですが……。**]