……………ズルいな、貴方は。
(ズルいことする心算じゃ、なかったんだろうが)
[ふと唇から零れた呼称をごまかすように、濃すぎる黒の瞼を降ろす。
目を閉ざして心を“みえなく”したことでまたエナガから怒られるか窘められるか……とも思ったものの、そんな顛末になる気配は無く。
妖精の手指の感触は、顎から、風船を持つ方の手首へと移っていった。]
「……良かった。良かったわ。
それではヘロン、ちょっと署まで来てもらうわよ?
あの拘置所みたいに、取り調べの合間の食事に
ポール・パネのボル・デ・リまでは出せないけれど」
[こうして柄長の鳥の翼ある妖精は“犯人”の手を引き、その翼で宙を翔け、上空から正門へと滑空する。
ヘロンにはなんとなくでも判っていた。おそらく、エナガにも。
この門を潜り抜け目覚めた先は、現実の通り、互いに離れ離れであるのだと。]