─ある日の夜雀亭:フィジシャンと─
[嘘を見抜く術というのは無数にある。
しかしその裏にある真実を暴くのは、えてして簡単なことではない。]
へえ、お医者さんなんだ。
常連さんって素敵なお仕事をされてるのね!
[当たり前のように吐かれる嘘を受け流しつつ、男の仕草に意識を凝らす。突然話しかけられて困惑した様子だが、すぐに穏やかな調子で会話を返してくるフィジシャン。
しかし困ったことに、それ以降はまるで本当に知らないみたいに自然な反応で、少し前の自分を疑ってしまうほどだ。慣れ親しんだ店の飲み物を警戒する姿を見て、不自然さを感じさせてしまったとかと省みる。
それでもめげず、断片的にでも推測できないかと──]
そんなことないよ。
自分ではそういう風に思っていても、聞いてみたらすごく楽しい!……なんて、よくあることだもの!
[と続きを促すのだが、収穫は無いに等しかった。
お酒に酔っても少しも胡乱になる様子がなく、話していてもぼろを出さない。身内なら愛嬌も通じにくいだろうし(私の実年齢は知っているはずだ)、これはかなりの強敵だ。
これでは埒が明かない、とその日は他愛ない会話をするに留まった。でもお酒の好みについてだけは収穫と言えるかな?>>202と、銘柄のリストを思い起こしながら。]