[校舎前の花壇が土の窪みだった頃も、
芽吹いた緑がちょこんと顔を覗かせていた時も知っていた。
でも、それだけだ。
この花たちを誰かが植えたことは理解していても、
それが誰かなんて考えたこともない。想像もしない。
だから、目撃した事件に自ら乗り込むこともしない。>>149]
大丈夫かー。
[既に手当てが済んでいるなら立ち直った花びらを
未だ潰れているなら倒れ伏した葉を、
結月の小さな指がつんつんとつつく。
当然返事はない。それでも結月の瞳は花壇を見ていた。
結月の指は土よりも絵の具で汚れてばかりだったから
救いの手だって差し伸べられない。]