[あの時はまだ船に乗ったばかりで、
どんな人達がいるのかとか、一か月どうやって過ごそうかとか。
出したばかりの、初めて曾祖父と同じ土俵で戦うことになった本が
どんな風に受け取られるだろうとか、不安しか無くて。
そんな中、年配の男性がまさか持っているなんて思わなかったから
つい、名を名乗ることを躊躇ってしまったのだ。
そうして、名前を言うタイミングが見つけられないまま今日まで来てしまったけれど]
……せめて、お礼だけでも
言いたいんだけどなぁ。
[遠目でもわかるくらい、
一枚、一枚。頁を捲る指の動きは早くは無く、
けれど止まることも無く、読み耽ってくれていた。
あれだけ集中して読んでくれていたのだ、
彼が私の本をどう思ったかなんて、聞かなくたって分かる。
ありがとうと、どれだけ言葉を尽くしても足りない位に
私の世界を愛してくれたのだろうと**]