[クローゼットから見繕った黒基調のアンサンブルワンピースは、船員の為のものか。贅沢にして豪奢なパーティールームを備えたこの輸送船に相応しく、上質な生地に丁寧な縫製と装飾を施したもの。
“Air”――ハリコが独立前に所属していた老舗ブランド>>17によって仕立てられたその服に袖を通し、パンプスに履き替える。ヒールの所為でそれなりに歩きづらいが、下手に訝しがられない為にも、コーディネートの統一性には代えられない。
乱れた髪は梳いて編み直し、鏡の前でメイクも直し。
顔の右側の火傷の痕だけは現状ではどうしようも無かったが――幾らか思案して、小さめの花柄のスカーフを頭に巻いて包帯を覆い隠すことにした。更にその上から、派手な色調に幾何学模様をあしらった大判のスカーフで首元ごと頭を覆い、スカーフが外れないようにピンで固定する。]