必要なものがなかったかと問われれば、それには首を振る。
この船に持ち込んだのはトランクケースふたつ。
その中身はごくごく普通の旅行用のもので、移住には足りないだろう。
だから私は客室を取るときに一番小さなもので選んだし、
持ち込むときの手間なんてそうなかった。
「いえ……必要なものばかりで、
それがいずれ無くなってしまうのが、怖かったんだわ。」
一番時間を共にした姉という存在は、
アンドロイドだから、その役目を終えたから、居なくなった。
私が処分したわけじゃない。
私が処分していいと思ったわけじゃない。
でも、そうやって勝手になくなってしまう大切なものが怖くなった。