[店を閉め、自室でふと思索に耽る。
人間でありたかった、と思ったことはない。
しかし、人間でないことで今の生活が続けられないのであれば、何のために変わらない体となったのか、と思う事はあったかもしれない。
「幸せに生きてンなら、それでいいンだけどな」という呟き>>0:403が、少しだけ胸に残っていて。
幸せとは何か考えたことは無いが、失いたくないという曖昧な気持ちに向き合ってみようと思ったのは、夜という時間に潜む魔物のせいなのかもしれない。
──人は変わる。年を取り、いずれは死ぬ。
望みの如何に問わず「生かされた」私は、私の望みに反して「死」へと移り変わる父を、そしていずれ移り変わるであろう大切な人たちを、否定することはしない。
それが人であり続けることの「幸せ」の一つなのだろうから。
しかし望みを受けて生に取り残される「私」が、失うことを恐れることは許してほしい。
願いと共に死ぬことが、死を幸せと共に迎える人々の根源だとしても。
そんな悩みをもしオーネストが聞けば、贅沢と思うだろうか。結局は立場ゆえの死を迎え、しかし立場ゆえの財力と行動力で確かに生を迎えた。
私に選択肢はなかったが、私を「生かした」人々は確かに私の「生」を選んだ。かろうじて、選ぶことが出来た。
そんな選択肢が無かったことも、彼の疑心の根拠も、アリシアに知る由はなく。また話すことも無ければ、真相は窓の外、夜の闇に溶けて消える。]