現在
[主たる外科医も退出したのならば、女にもこの場所に用はなく。
持ち合わせているが故に、律儀に鍵だけは閉めていった。
閉鎖空間からの解放は、同時に雑踏からの歓迎である。
病院から一歩外に出てしまえば、そこは人の行きかう街の中。
駆ける者も、歩く者も、通る車も当然にある。
その騒がしさが、女にとって今は少しばかりありがたいものだった。]
……お腹すいた、かな。
ちゃんと食べないと、頭が痛くなってくるのも
もう慣れてきちゃった……
[虫の鳴る腹を片手でひと撫で。
どことなく浮かれた様子の周囲をよそに
ふらりと飯屋の品定めをせんと歩き出した女の視界に映ったのは、まるで徘徊する浮浪者じみた男の姿
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