[こうして結局、白薔薇はひとり、ラウンジの本棚の前に向かいました。
えりざべーとに別れの挨拶をしてから本棚に向き合った時の白薔薇には、もう既にあの若者の顔と声へのおぼろげな心当たりが浮かんでいました。>>291]
それは今年の梅雨の話
[白薔薇の元々の持ち主であるあの女の子――いまや大学生になった女の人が、下宿するために今年の春に家を出て行ってからのこと。
梅雨の頃に一度だけ、その女の人が家に戻ってきたことがありました。どうやら法事のついでだったようです。
数か月ぶりに現れたその人の心の内からは、立ち寄ったお寺のこと、最近のツバサ様のご活躍のことに加えて、白薔薇の知らない人々のことがおぼろげに感じ取れました。
その女の人と同じ年ごろか、少し年上の若者たち。時々、とても年の離れた人々(おそらく教授陣でしょうね)。
きっと、大学で初めて出会った人々のすがたなのでしょう。]