[とはいえその黒髪の女囚が示した心配の色をハリコは疑わなかったから、彼女の心配や気遣いを無下にすることだけはすまい、と。
相手に顔を覗き込まれた時には僅かに頬を背けるも、それでも後ずさることまではしなかった。]
そうね、付き添ってくれるかしら。
顔は大丈夫だけれど……背中と左手が痛むの。
あたしの手持ちには薬なんてないし……。
[医務棟までなら辛うじて一人でも行けなくはなかったが、それでも同行を求めたのは、相手の気遣いに報いるため(その言葉を鑑みるに、彼女にも薬の持ち合わせはないのだろう)。
この場の監視役の看守たちの様子を左目と両耳だけで窺いながら、看守たちの嗜虐をこの場で煽らないように言葉を選ぶ。
同じ囚人の立場なら、痛みの具体的な経緯を告げずとも体罰によるものだと察せるだろうと。
……ついさっき廊下で受けた鞭打ちの音も(この看守は「満足いく呻き声を上げるまでぶち続ける」性質だった)この囚人に聞こえていたかもしれない、とも。]