「飯島の立ち去った後には供えられた花がそのままだった。
彼は誰かの供えた花に、指一本触れはしなかった。
供えられた花は花壇を見ていた誰かの存在証明だった。
正体を知りたい気がしたが、残念ながら飯島はその人物に心当たりがなかった。
探してみようにも、残されたのは一本の花のみ。到底見つかるはずもない。
だからといって、花を処分してしまうのは躊躇われた。
なんとなく、知らない誰かの痕跡を消してしまいたくなかった。
それで飯島が去った後には、完全には荒れた形跡の消えない花壇とそこに供えられた花が残された。」
ー 玉響に“なけ” 原作小説より一部抜粋 ー