[ある日、月のもので寝込んでいた同期が「夜雀のアップルパイ食べたい」と言い出したことがあった。
そこで「だったら行けばいいじゃない」などと言う程、文字通り血も涙も無い機械の女も無情ではない。
実際にあの酒盛りの現場でアップルパイも供していたかはさておき(当時のフアナはその辺りの事情に疎かった)、パイを買って帰るためだけに、フアナは夕刻の夜雀亭のドアを潜った。
その際、女将の下で賑やかな店内を駆ける看板娘の姿も、当然のように見かけている。]
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[「アリス」と呼ばれたその看板娘の顔に心当たりがあっても、此方からは特に声をかけなかった。
リリオの女たちは総じて、公爵の孫娘に関しては「触れるべからず」のスタンスだったのだ>>167。]