戯言
[電脳化の技術。それは覇権を取るための必要不可欠な技術と言ってもいい…というのがトループの裏社会の常識で。日々、より高度な技術を手に入れるために、極秘裏な研究や実験だって行われてるとか言われてる。
…10年前。俺はそんなこと、知らなかった。
電脳化っていうものが、まさしく神の手、不老不死を得るための技術、のように思えていた俺は、間もなく命を散らしてしまうであろう妻を、縋るような想いで甘い誘いに差し出した。
“ある程度大きな組織”、“表向きは真っ当な機関”、の誘いであったことが俺を後押しする。
病気なら幾らでも治る
電脳化で永遠の命を得る
…妻の望みではなかった。だけど俺の必死さに、妻は「貴方が言うなら」と賛同した。
でもそれは“実験体”でしかなかった。間もなく命を散らす薄命の人間であれば、一年も二年も変わらない。実験が成功するなら万々歳。…そう。その裏の意図を俺は知らず、妻を送り出す。意図やそういう非人道的な組織があるのを知ったのは、今の組織に入ってからだ。
………妻は二度と、戻ってこなかった。
手に入ったのは余りある“金”だけ。妻の存在はすべての記録から抹消され、“無かった”ことになっていた。
本当は金があるんだぜ、と正直者は語る。*]