― バー ―
[一見不愛想な彼が、笑いながら家族との再会がどれほど楽しみかを語る。>>296
こちらもその姿に思わず穏やかな笑みが零れる。
自分には妻も子もいない。
ずっと好きだった人は居たし、同じ主人に仕える仲間の子どもの面倒をみたことは数えきれないほどある。
けれどもこうやって伴侶を、血の繋がった子を得る機会はついぞなかった。
彼女が亡くなった後暫くは、少しだけ人のこのような話を聞くことが辛いこともあった。
あと少しの遠慮がなければ、自分にもこのような人生があったのかもしれない、と思うことがあった。
けれどもやはりそれを癒してくれたのも、主人に、仲間たちに、その子どもたちだった。
妻と子を大事にしようとする目の前の彼の姿は、彼らの姿と重なって、どうにも愛しかった。]