ー 春・五月下旬 放課後 校舎前花壇にて ー
[ケンとの約束が果たされたのは、事件から少し間をおいてからのこと。
明確な日時を決めていなかったため、その日の昼休み、彼のクラスに赴いて放課後残ってくれるよう(いなければクラスメイトに伝言を)伝えた。
本当は事件のその日にやっておけば、彼のクラスで悪目立ちすることもなかったのかもしれないが、五月下旬の方が飯島にとって都合がよかったのだ。
彼との約束、パンジーの植え替え。
もうすぐ時期の終わるこの頃に植え替えをしてもそんなに意味はない。そんなわけで。]
ごめんね。ケンくん。
植え替えもしてもらうんだけど、切り花も手伝ってもらっていーい?
[まだパンジーの花が元気な内に切り花にし、各教室の花瓶へと生ける。
切り花にした花の株は用済みなので処分する。
切り花にしなかった数株をプランターへと植え替え、種を取る準備をする。
これらを一人でやるのは重労働だと考えていたので、人手が増えたのは嬉しいことだった。
まして彼は体格もいいし力もある。予定になかった労働を断られたところで植え替えの手伝いをしてくれるだけで万々歳だ。
…あわよくば株の処分までは手伝ってもらおうと考えているのはここだけの話。]**