――展望施設(午後)――
[読書は不思議だ。文字列の海に視線を走らせていると、周囲の音が聴こえなくなる。
アンドロイドである私は勿論、数メートル先で落ちる針の音も耳に拾ってはいるが、物語に集中しているとそんな静寂に包まれるような、そんな気持ちになるのだ。
お話を最後まで読み切って、作者の後書きに目を通す。
ああ、あのシーンはそういう意味だったのか。とても心理描写が巧みだったと思っていたが成程…。
物語の余韻に浸りながら私はほう、と溜息をついた。
そのように私は本に集中していた為、見知りの彼の人への反応が一拍遅れた。
顔を上げて本をぱたりと閉じて笑みを浮かべる。]>>293