― 彼女の家 ―
[トントン、と小さなノック音を2つ。]
ヌル、わたしだが
[控えめな声量で声をかけ、待つ事暫し。
招かれる事はあっても尋ねる事は滅多に無い場所を前に、家主の在宅を確かめる。
左手には手土産である焼き菓子入り紙袋を抱えているものの、今日はお茶会に呼ばれた訳でもないし、ましてや何か約束をしていた訳でもない。
不在であればそのまま帰る気で居るが、持ち帰って一人で食べるのも勿体ないなとぼんやり考えていた。(帰って他者と分け合うなんて選択肢は、完全に頭から抜けている)
今日来たのは、軽い確認のため。
他者から話を聞くに、どうも彼女は療養中の自分に会いに来て門前払いを食らったらしい。>>272
報告自体は早々と受け取って居た物の、「中に入れても良かったのでは?」と言う自分の言葉は、あっけなく却下されてしまっていた。
その後も尋ねに行く機会をズルズルと逃し続け現在に至る。
何か用があったのだろうかと、今度は自分の方から尋ねに。]