[根岸は丹田を見上げた。
その表情は美濃に通ずるようで、別の柔らかさが覗く気がする。
根岸が勝手にそう思っているだけかもしれないが、
自分にはない彼女の魅力を間近で見られた気がして
冷静に冷静に、お仕事お仕事と言い聞かせる心が弾んだ。]
……あの、丹田さん。
[はいやりました。冷静にって言ったでしょ。
どれだけ自省を促そうとも発した言葉は戻らない。
手早く腹をくくると根岸は口を開いた。]
以前、所属していた劇団に差し入れをいただいたことがあって。
『ひなぎく』っていうところだったんですけど……はい、吉木さんの。
[吉木とは、劇団『ひなぎく』がお世話になっている劇場主である。
田美院先生と友人の彼女には作品名の方が通るかと思ったが、
彼女の後輩が所属しているし>>260、きっと伝わるはずだ。]