[当時、根岸は丹田と直接顔を合わせたことはない。
「丹田さんから差し入れいただきましたー!」
「今日のケータリングは丹田さんからでーす!」
という声と周囲の歓声を聞いただけだ。
彼女の差し入れはバイト戦士だった根岸の腹を存分に満たし、
劇団のSNSには他の劇団員と一緒に牛カツサンドやカレーを手に
満面の笑みを浮かべる根岸の写真がアップされたりした。]
あの……お腹いっぱい、いただきました。
ありがとうございました。
[お腹いっぱいはわんぱく過ぎただろうか。
でも彼女にとっては印象に残らないいつものことだったかもしれない。
それなら少々おどけた方が丹田も反応しやすいだろう。
根岸は結月とは異なる溌剌とした笑みでお礼を告げた。
ちょうどヘアメイクが終わり、スタッフが本番の準備を進める。]