[他者の家故、食べる量は普段より控えめに。
無論、此処に居ない祖母への遠慮もある。
平凡で暖かな、彼女が暮らし語る日々が窓から差し込む物だから。自分にはそれらが酷く眩しく感じる。
悪い物と言うのはね、時に日に焼け、灰となってしまう物なのだよ。
普段より大人しい振る舞いをする自分に相手は何を思っただろうか。
自分が今まで知ろうともしなかった、お菓子の作り方。
何時もは手折り踏みにじってしまう、鮮やかで美しい薔薇。
裏路地では見向きもしない、枝のコレクション。
どれも知らない事ばかり。
わたしから話せる事は、彼女と比べるとほんの僅か。
目を伏せながら語るのは、キャンディーや焼き菓子を買う行きつけの店、好む背の高い見晴らしの良い廃墟。
暗い話はなりを潜め、一欠けらも話題にしなかった。
後は、茶葉やジャムは何処で買って居るのかなんて聞く時もあったと思う。
お茶のお礼と贈れる品は酷く少なくて、何時ぞやのいちごキャンディーと、キャラメルが数個、腰のポーチから出て来たか。
帰り際、いつかのように、それらを手に握らせて。]