[彼女がフットマンに会いに来た時、遠目にちらりと顔を盗み見るだけで終わったのは、良かったことかもしれない。不機嫌そうな横顔だった、ということは何か機嫌を損ねるようなことがあった、ということだから──尤も、フットマンに関しては何もなくても機嫌が斜めになることがままあるが──。
目が合って、何か思いつかれたら災難だった、と言う他なくなる。
当時の彼女が無事でよかった。
──尤も、もし彼女が再びフットマンに会いに来るようなことがあれば、今度こそフットマンは気付くだろう。
彼女が話しかけなかったとしても、フットマンから近づいて、話しかけたに違いない。
表通りで出会っているだろうから、孤児だとは思わなかったはず。だから、ただ話しかけたい気分だった、というだけだろうけれど。*]