[これは、今から25年程前の話。
トループ国内を拠点としていた、ある一つの組織が消滅した。
組織名、「シンギュラリティ」。
端的にいえば、機械至上主義者たちの組織だった。
主な構成員は機械化人類や、生身由来でないAIを有する自律型ロボット、そうした機械たちに心酔する人間、といった辺り。
「機械化人類を主体とする地球支配」「旧人類の浄化」という思想がシンギュラリティから提唱されていたと言えば、この組織の特異性は十分に伝わるだろうか。
それでも、シンギュラリティはあくまでこのトループの一員だった。
組織の宗教的理想と、渾沌の国という世俗のルールとに、一応の折り合いはつけていた。
ヴァルハラの優れた機工・通信技術も取り入れていた程度には、隣国勢力との関係もそれなりに良好だったようだ。
だから表社会は勿論、裏社会や国外においても「旧人類」を無暗に殺戮したなどのことはなかった。せいぜいが巧妙な手段で思想を「布教」し、あわよくば「機械化した同胞」をじわりと増やそうとした、という程度。]