― 春・五月/登下校 ―
[美術部を退部したからといって、幸阪結月は消えたりしない。
特徴的なツインテールを揺らし、大神高校の中で生きている。
移動教室のタイミング、購買の人ごみに流された昼休み。
体育の授業に、毎日の登下校。
去年の靴箱は特に大変だった。
出席番号順に割り振られた場所が上の方だったのだ。
届かない訳じゃない。背伸びも必要ない。ちょっと取りにくいだけ。
片手をぐっと伸ばして靴を取るのは一日二回の日課だった。
結月が癖のように花壇に視線を向けると、
今日もまだ萎びた花が横たわっていた。>>295
なぜかその様子が気になって、彼女は毎日一瞬だけ足を止める。
紙芝居を一枚捲ったように
色とりどりのパンジーが消えたのは五月下旬のことだった。>>313]