[スタッフが駆け寄ってくるのに片手で応じながら、周囲に頭を下げる。]
すみません!
いけるかと思ったんですけど、意外と痛かった……。
[そこで初めて、羽藤は棚に打ち付けた肩を手で摩った。
そうしながら、海藤ならあの場ではどう動くのが正解だっただろうか、と思考を巡らせる。
公演中に身体をセットにぶつけても、小道具を落としても、アドリブで拾うか、あるいは何事もなかったように続行するのが舞台演劇だ。
幕の上がった舞台にやり直しは存在しない。
そうした緊張感を羽藤は好んでいた。]
大丈夫です、続けられます。
皆さん、よろしゅうお願いします。
[棚との位置関係を計った後、監督に向かって羽藤は笑いかける。
撮り直しでは、肩を打った事を感じさせない演技を見せた。**]