[店まで戻ってみると、どうやら老婆は針時計を手入れしているようだった。その造りは遠目に見ても綺麗で、これに並ぶ品質の物は公爵の蒐集品を全て集めても中々見られないと思わせるものだった。]
『早いお帰りだね、……おや。』
[服に付いた返り血を見て薄い笑みを浮かべる老婆に、少し不気味さを感じたのは仕方の無いことだろう。]
ねえ、口封じに殺されるかもとか思わないの?
『いいや?何をしていようと、人間なんざ見ればわかるモンだよ』
そう……時計、あるんじゃない。
『これは非売品さ。見かけも良いが、音が何より面白い。入った奴によって変わるのさ』
[よくわからない、と言わんばかりの顔をする私にカカと笑い、老婆は続けた。]
『今日の音は格別だったよ、目の覚める音だ。そいつは記念にやるよ、中心を押せば動くからね。』
[そうして少し釈然としないまま、アリシアは宿に戻る。「小娘の知りたがり」がどれほどの意味を持って捉えられるか──少なくとも、その判断の針を揺らす事件ではあったことだろう。
夜の女王のアリアとしては頭の痛い問題かもしれないが、自由に責任が伴うのは自然の摂理だ。調査対象を定めたアリシアは、戦略目標を特定すべくもう暫くは調査に乗り出すこととなるだろう。
逃げるだけなら簡単というのは甘い見通しだろうに──ああいや。彼女は……物足りなかったのかな?**]