穴掘り帝国予定地にて
ズィーな。オーネスト…言いにくかったらオッチャンでいいからな…?
[そんなふうに笑って腹を満たした。
選択できなくとも、知ることはできる。井の中の蛙、ドブの中の鼠じゃァ、狭っちぃ価値観で誰かを傷つけることもあるかもしれない。だけどそれは違うんだって、違うものに触れて、広がる世界もある。
40も間近な今、どれだけ見識を広げられるかはわからねェけど、それでも広がるモンはあるはずだ。
それを教えてくれたのは石ころみたいな女だった。
スラムじゃ、誰かの名前を知らないなんて当たり前でそんな奴らが肩寄せあって生きてきた。だけどあの日以降、週に一度くらい硬いパン持って顔見にいく子供だけは「アイツ」や「お前」じゃなくて、「ズィー」と呼んでやる。
たった数分、数十分、隣り合わせでパン食って、名前で呼び合う相手がさ、「友達」じゃなくてなんだって言うんだ。
いつかこのパンも「旨いな」なんて知る日が来ると、きっといい。**]