[驚きはしない――この機体では、できない。
それでも、自分では全く気づかず、おそらく両親も周囲の他の誰も気づいていなかっただろう事実を、電子の脳は暫し処理しきれずにいた。
もしあの父がレイの染色体のことを知っていたならば、「女の子らしい服を着られれば」>>0:386と曇りなく笑う娘にも、事実の伝達と「自分のからだ」についての選択肢の提示程度はしただろう。]
…――――待って、
[とは自動的に発したが――「何かを感じて止まない」心が、確かにそこにある――人目に付かぬ廃墟の一部屋に留まり続ける伝令はいない。
オクリビはデータを載せた紙をくしゃりと乱暴にポーチに押し込めてから、未だ瓦礫多い屋外に飛び出す。
機工の脚で駆けて、駆けて――。
仕事を終えてひと心地ついたと思しき「夜の女王」の構成員の背に、大きな合成音を放つ。]