[やがて地上に上がってからは、洋菓子店の紙袋のひとつに詰め込んだ洋菓子を、捜索に携わった「夜の女王」の者たちにひとつひとつ手渡していく。
地下室で感謝を伝えられなかった者に対しては、お菓子と一緒に礼を述べて頭を下げて。
そしてフィジシャンには、携えていたもう一つの紙袋を、そのまま謝礼として手渡した。
紙袋の中身は、彼の行きつけの店のマドレーヌとフィナンシェ、日持ちのするバウムクーヘンのカットも幾つか。フレーバーはプレーンとチョコレート、ストロベリーの3種。
そして例の、あの洋酒入りのチョコレートの箱。
「聞かなかったこと」にした>>317例の一件は時効にする――そんな意図からのセレクトだった。]
本当にこの程度の報酬で良かったのかしら……。
ともあれ、おじさまのお陰で、
私は“私”の身体に、ちゃんとたどり着けました。
[ただの人探し程度であれば、この「赤い悪魔」にはお茶の子さいさいだったのだろうけれど。
その調査結果をこれだけ大々的な発掘に繋げ、その現場にもわざわざ立ち会ったとなれば、依頼人の女からこのような言葉も零れてしまうというもの。]