(――硬貨というのは人間達の営みにに紛れ込む日々の中でも、本来の己の領分の所縁のある品としても、最も身近な光物である。
そして同時に、賭け事においても最もシンプルで手頃な道具でもある。
冴え冴えとした冬の夜空へと手元から高く跳ね上がった硬貨が、街灯の灯りを反射しながら再び下へと堕ちていく。
それを捕えて掌を見下ろせば、王冠を貫く短剣の図柄が上を向いていた。
自分は結局"こういうもの"なのだ
手堅く、得るものも相応の選択では満たされない
より多くを得られる方が良い
わかりきった展開と結果では退屈してしまう
より強い刺激が欲しい
純粋すぎる獲物では物足りない
時間をかけて育て、手にしたものも望むものも膨れ上がったくらいが丁度良い
同時に、悪魔の賭けというものは姑息なイカサマをしてこそだ
どちらに転んでも実のところ損ではない、くらいが丁度いい
硬貨をポケットに仕舞いこみ、口元に弧を形作る)
『欲張りでいられないのなら、楽しくない』