>>-208>>-209>>-210
[落胆の色をした『治ったか』に、心の水面に水滴がぱたぱたと落ちて小さな波を立てた。ユークレースにとって、『治る』はこれ以上ない言葉で、落胆の色はあまりに似つかわしくない。
次に視線がかち合った時、彼の目の水面は暗く染めた絹のように揺らめいていた。]
ドラゴン……
[次いで、彼が姿を変えるのを目を丸くしたまま見届けた。あの姿は薬の作用ではなくこちらが彼の本来の姿なのか…]
あの……どうして、人の血が必要なんですか?
こんな面倒な方法をとってまで……
[人に紛れて生活することや、しがない薬師と約束なんてものを交わして少しずつ血を飲むこと。血が欲しいだけならば支払う必要のないコスト、負う必要のないリスクだらけだ。]
……貴方はきっと、人間として暮らしたいんですね。
違いますか?
[白いシャツの隙間、僅かに見えている下腹部にも黒い鱗が覗いていた。それと長く鋭い爪、牙も見た。口の中はさっき荒らしたばかりだけれど今はだいぶ様子が違うようだ。
騒ぐ?の問いには未だ直接答えないものの、彼へ気持ちを問う声は丸くて穏やかで、その心は言わずとも伝わるだろう。]