>>-308
[寝食を忘れて過ごして夜明けを迎えるのは何度も経験があるけれど、こういう理由でそうなったのは初めてだ。広くもないベッドに大人の男が二人、くっついて横になっている。彼は眠っているだろうか。]
……無理させてしまったかも。
[静かな部屋にぽつんと言葉が転げ落ちる。いくら“よく効く軟膏”を使っていて気持ちよくなれるとしても、彼が其処に人を受け入れるのははじめてなのだから。こちらも発情していたとはいえ、性急にしすぎた。止まれなかった。]
……
[どれだけ観察しても、昨夜見た黒い鱗は影形ない。傷ひとつない綺麗な肌を今度は観賞するような心持ちで見つめた。
恐らく、彼の力を借りれば多くの人を救うことができる。怪我だけでなく、病気にも効くだろうか。どの体液、どの組織を使うのが一番効くのか。いや、一番の障害は他人に薬の材料を説明できないことだ。何とごまかしても嘘だとバレる、同じ薬を再現できるわけがないのだから——考えることは山程あった。
と同時に思い起こすのは昨夜のことで。男を慣れない様子ながら受け入れる姿がいじらしかった。どうして明らかに弱い種族に近付き、あまつさえ抱かれたりするんだろうか。身体も心も謎ばかりだ。
もっと知りたい。
——だからって唇を合わせるのは何か違うかもしれない。まあでも今更減るもんではないし。]