[ああ、そうだった。このひとは人間ではないんだった。
彼を薬の材料だと思ったりヒトだと思ったり。多重にある彼のレイヤーが代わる代わるに浮き沈みしていた。彼を知れば知るほどそのレイヤーは増えていくのだろう。]
え、何でもいいんですか。
そうですか……
[彼の心の内など気付きもしないで発された言葉をまともに受け取り、なに頼んでもいいんだ…じゃあどれから頼もうかな…などと考えていた。
彼が血を求める理由は分からない。どうしてなのかとても知りたいけれど、裸の後ろ姿からはなにも読み取ることができず、そのまま浴室へ消えるのを見送った。]
*
[制服は、と言われた頃にはこちらもいつものように服を着込んで薬師の顔で『こちらです』と言って返す。手渡すとサボンの香りがほのかに漂った。]
……ではまた。
[ドア枠のところまでついて行って見送る。
薬屋のお客さんにいつもそうしているように。]