「周囲から外れないよう、目立たないように生きてきた。
選ばれた一握りの人間が輝かしい未来を掴むなら、自分はその背景の一部だ。
自分の周囲の人間も、また、そうであるのだと信じていた。
高校に進学し、一年が過ぎた。
誰かの背景だと思っていた彼らに、夢や未来の見通しがあるのだと知った。
流れ、流され、そのままいつか流れ着く場所に身を預けようとしているのは自分だけだった。
一体いつから進路を外れていたのだろう。
自らの歩みは大衆のそれであったはずなのに。
いつの間にか、彼らはそれぞれに進むべき道を見据え、舵を切ろうとしていた。
そうして一人、取り残される。
ゆらゆらと揺れ、もはや拠り所すら見つからないまま。
残されたのは不安と焦燥。それでも時間は止まらない。
更に一年が過ぎた。決断しなければならないときは、すぐそこに迫っていた。」
ー 玉響に“なけ” ー 原作小説より一部抜粋