「少年は静寂の一部だった。
彼の名を呼ぶ者の存在しない、彼のことを認知する人のいない場所で、まさしく少年は空間の一部として、そこに同化していた。
他の誰かからすれば、親しい者との時間に存在する背景であろうし、また図書室で何気なく周囲を見回す者にとっては風景であるに違いない。
彼らにとって、名も知らぬ誰かとはそこに在って、いない存在であり、いつか記憶の隅に葬り去られる存在だ。
その一人一人の人生を知らなければ、他人なんてその程度のものなのだ。
少年はただそこに居た。
その事実さえ、いつか消える存在として。彼はそこに居たかった。」